意識が戻らないまま1週間。三郎は現像を頼んでいた町のカメラ屋に写真を取りに行く。そこに写っていたのは、知らない男の姿だった。誰だ? この男は。自分の知らない美智子の世界がある。京都でこの男と会っていたのか。次々にわいてくる疑惑に押されるように、三郎は美智子の実家がある奈良へ。追ってきた娘の知美とともに、美智子の浮気相手探しの旅を始める。
10年ほど前、自殺しようとしていたおじいさんを止めた経験から、老いた人間の残された時間の生き方についていつか描きたいと考えるようになった、という監督の思いが一本の映画として結実した。
結婚してもうすぐ40年になる三郎と美智子。ある日、文学講座に行くと出かけた美智子が何故か遠い京都で交通事故に遭い昏睡状態に。途方に暮れる中、美智子の趣味だった残されたカメラを現像してみると見知らぬ男の姿が映っていた。困惑した三郎は娘の知美とともに、浮気相手探しの旅を始める――。
メガホンを取るのは、前作『テイクオーバーゾーン』(19)において東京国際映画祭で、その才能を高く評価された山嵜晋平。誰にでも訪れる「老い」や「夫婦」であること、「家族」であることを題材にした監督の原案を妻の秘密に触れ、そこから過去を辿っていく夫という40年を経た夫婦のさよならと始まりの物語に昇華させたのは、『戦争と一人の女』(12)や『さよなら歌舞伎町』(14)を手がけた脚本家の中野太。
全編を支える柱である夫の三郎の哀歓を見事に演じきるのは、『痛くない死に方』(20)での好演が記憶に新しい下元史朗。ピンク映画史上の最高傑作『襲られた女』(81/高橋伴明)など数々の業績を残してきた名優が、妻への不審に心を揺らす男の哀しみを見せてくれる。妻・美智子には、『四季・奈津子』(80)で日本アカデミー賞の優秀主演女優賞、『駅 STASION』(81)で優秀助演女優賞を受賞し、近年は出身地の滋賀県を舞台にしたNHK連続テレビ小説「スカーレット」でも、その存在感を確かなものにした烏丸せつこ。本作ではW主演として、長年連れ添った妻の部分と女である部分を見事に演じきっている。娘役に『岬の兄妹』(19)にて、高崎映画祭最優秀新進女優賞を受賞し、近作『由宇子の天秤』(21)でもその演技が好評を博した和田光沙。さらに脇を固めるのは、喉頭癌手術で声帯を失うも、『バット・オンリー・ラヴ』(16)で監督、主演復帰を果たした佐野和宏。日本映画の全盛期から現在まで役者人生を貫く名女優、三島ゆり子。まさに実力派俳優がそろって、若手監督の新しい一歩を支える。
本作が描くのは、年を重ねながら生きていく男と女が、自らに「何なんだ!」と苛立ったり、「何なんだ?」と迷いながら道を探しあぐね、それでも「(そんなもん)なんなんだ!!」と、その先に見えてくる光を掴もうとする姿である。
1948年生まれ、大阪府出身。劇団NLTを経て、1972年スクリーンデビューを果たす。以後、300本以上のピンク映画に出演し、ピンク映画史上の最高傑作『襲られた女』(81/高橋伴明)など数々の業績を残す。一般映画、Vシネマ約300本にも出演する名バイプレーヤー。主な映画作品は『陰陽師』(01/滝田洋二郎)、『PAIN』(01/石岡正人)、『ほたるの星』(04/菅原浩志)、『サンクチュアリ』(06/瀬々敬久)、『夏の娘たち ひめごと』(17/堀禎一)、『菊とギロチン』(18/瀬々敬久)、『痛くない死に方』(21/高橋伴明)等。
1955年生まれ、滋賀県出身。1979年6代目 (1980年度) クラリオンガールに選出され、芸能界デビュー。日本人離れしたプロポーションで、当時のグラビアを席捲した。映画 『海潮音』(80/橋浦方人)に出演し、女優としてのスタートをきる。同時期に五木寛之のベストセラー『四季・奈津子』の映画化で四姉妹の主役・奈津子役に抜擢され、映画『四季・奈津子』(80/東陽一)にて初主演を飾り、日本アカデミー賞主演女優賞・新人賞、ゴールデンアロー賞新人賞受賞、『駅 STATION』(81/降旗康男)で日本アカデミー賞助演女優賞を受賞。主な出演作に『マノン』(81/東陽一)、『松ヶ根乱射事件』(06/山下敦弘)、『祈りの幕が下りる時』(17/福澤克雄)、『教誨師』(18/佐向大)、『彼女』(21/廣木隆一)、『明日の食卓』(21/瀬々敬久)。次回作として、『夕方のおともだち』(22/廣木隆一)など。
1956年生まれ、静岡県出身。映画監督、脚本家、俳優。明治大学在学中に松井良彦、石井聰亙(現 石井岳龍)らと出会い、『錆びた缶空』(79/松井良彦)、『狂い咲きサンダーロード』(80/石井聰亙)などに出演。その後、『変態SEX 私とろける』(80/渡辺護)、『ラビットセックス 女子学生集団暴行事件』(80/小水一男)に出演したことをきっかけに、ピンク映画に関わり、出演作は100本を超える。82年に自主製作した『ミミズのうた』で脚本、監督、主演を自らこなすスタイルを確立。『追悼のざわめき』(88/松井良彦)に主演。89年に『監禁 ワイセツな前戯』(『最後の弾丸』)でピンク映画監督デビュー。ドラスティックな作品を次々と発表し、瀬々敬久、サトウトシキ、佐藤寿保らとともに「ピンク四天王」と呼ばれる。2011年6月に咽頭癌が見つかり声帯を失うが、『バット・オンリー・ラヴ』(16)で18年ぶりに監督に復帰した。
1983年生まれ、東京都出身。映画『靴が浜温泉コンパニオン控室』(08/緒方明)でデビュー。主な出演作は、『あんこまん』(14/中村祐太郎)、『なりゆきな魂、』(17/瀬々敬久)、『菊とギロチン』(18/瀬々敬久)、『止められるか、俺たちを』(18/白石和彌)など。2019年、主演を務めた『岬の兄妹』(18/片山慎三)がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭(国内コンペティション長編部門)優秀作品賞&観客賞受賞。同作品にて第34回高崎映画祭最優秀新進女優賞を受賞。近年の主な作品に『蒲田前奏曲』(21/穐山茉由)、『由宇子の天秤』(21/春本雄二郎)、『CHAIN/チェイン』(21/福岡芳穂)などがある。
1976年生まれ、広島県出身。大学在学中に小劇場の舞台から俳優としての活動をスタートさせる。主な出演作品に映画『なにもこわいことはない』(13/斎藤久志)、『オーバーフェンス』(16/山下敦弘)、『五億円のじんせい』(19/文晟豪)、『ファンシー』(20/廣田正興)、『糸』(20/瀬々敬久)、『シュシュシュの娘』(21/入江悠)など。ドラマ「24JAPAN」、「特捜9 season4」、「青天を衝け」など、以降も映画、テレビなど待機作多数。
1947年生まれ、長野県出身。1967年演劇集団「変身」入団。街頭劇、野外劇を経て71年「はみだし劇場」旗揚げ。 1986年新宿花園神社にて立松和平作「南部義民伝」で野外劇を始める。「劇団椿組」主宰。 夏の花園神社野外劇(2021年で36周年)と下北沢の劇場でプロデュース公演を中心に他団への客演も多し。 映画・テレビドラマ・アニメ声優等多方面で活躍。新宿ゴールデン街でクラクラも経営、その組合の理事長も務める。近年は、『閉鎖病棟-それぞれの朝-』(19/平山秀幸)、『凪の海』(20/早川大介)、『護られなかった者たちへ』(21/瀬々敬久)に出演。
1940年生まれ、神奈川県出身。1959年東映第7期ニューフェイスとして入社。デビュー当時は本名で出演していたが、1963年から現在の芸名で活動。多数の時代劇に出演、初めは武家の娘や妻など清純な役柄で力量を示す。その後、中島貞夫監督の『くノ一忍法』(64)、『くノ一化粧』(64)で豊満な肉体の魅力を発揮しやくざの情婦、売春婦など汚れ役に大胆に挑戦する。「暗闇仕留人」で演じた妙心尼が発する「なりませぬ」は流行語となる。近年では中島貞夫監督20年ぶりの新作映画『多十郎殉愛記』(19)に出演するなど、現在もテレビや映画、舞台で活動中。「マッサン」「カーネーション」等出演。